「自分が凡人であることを知った凡人は、もはや凡人ではない」
小説家塩野七生氏の名言だが、野田康生という選手にはこの言葉がぴったりとあてはまる。
彼は決して野球が上手くない。
監督の今藤陸とは中学校からの同級生で同じ野球部に所属していたが、打撃もイマイチで弱肩、足も一般人に比べてやや速い程度と、特筆すべき特徴の無い選手だった。
高校時代も同様で、肩は成長期で多少強くなったものの、現役生活の3年間は3年の春季大会のベンチ入り以外は全てメンバー外である。
しかし彼は誰よりも自分自身の才能を自覚していた。
高校卒業後にはちみつハニーを中心に活動しながら、早朝野球や少年野球のコーチとして様々な経験を積み、野球勘を磨き上げる。
また、打撃も長打を捨て出塁率向上と小技を徹底的に鍛えていった。
その結果打撃成績は格段に成長し、これまで1割~2割前半だった打率が2014年~2016年にかけて2割台半ばまで上昇。
かつ出塁率も4割近くをマークするなど、並々ならぬ努力でレギュラーを獲得するまでに至っている。
そして打撃以上に磨かれたのが守備面。
味方バッテリーと相手打者の特徴を見抜き、打球を事前に予測してしまう恐ろしい特技を手に入れた。
ハニーには野生の嗅覚を持つ大野や俊足の須藤など、守備範囲の広い選手は多く居るものの、謀られたかの如く打球が飛んだ先に居る選手は野田康生ただ1人である。
ここ2年は相手チームが強化されたことにより、打撃成績が再び低迷している。
それでも持ち前の努力で再びレギュラーの座を確保してくれるだろう。